脳ドックで未破裂脳動脈瘤が発見され、予防手術を受けたA子さんの談話
赤坂パークビル脳神経外科 広報室
私が脳ドックを受診したのは平成20年、60才になる年の1月でした。定年をひかえて、一度徹底的に健康診断を受けておこうと思ったからです。
私には4才上の姉がいるのですが、53才の時に未破裂脳動脈瘤が見つかり、予防の開頭手術を受けています。脳動脈瘤が出来やすい体質は遺伝するらしい、と聞いていたので、家族からもずっと脳ドックは勧められていました。
所属の健康保険組合が受診費用を助成してくれるので、自己負担額が1万数千円で済むことも、気持ちを後押ししてくれました。
脳ドックで未破裂脳動脈瘤が見つかったときは驚きましたが、姉のこともあるので「やっぱり」という気持ちも大きかったです。
すぐに慶応大学病院の脳神経外科に紹介状を書いて頂き、外来を受診しました。
2月に一泊二日の入院をし、今度は造影剤を入れる血管のカテーテル検査を受けました。その結果、私の脳動脈瘤はいびつなハート型をしており、カテーテル手術では突き破る危険がある、開頭クリッピング手術の方が望ましいだろう、とのことでした。
先生は「ご本人がお考えになった上で、治療法を決めて下さい」と言われましたが、一番リスクの少ないという開頭クリッピング手術を選びました。ただ、脳動脈瘤は左の動眼神経のすぐ近くに出来ており、もしかしたら左目に障害が残るかもしれない、と説明されました。
手術を受けるのは、ひたすら怖かったです。反面、放っておくとどうなるか分からない、なるべく早く手術して欲しい、とあせる気持ちもありました。
姉のことがあったので、手術を受けることに迷いはありませんでしたし、家族も「破裂する前でラッキーだった」と応援してくれました。最後は「なるようになるか」と全てお任せする気持ちでした。
手術を受けたのは、脳ドックの受診から4ヶ月後の5月で、執刀医は堀口先生です。入院期間は10日間ほどで、入院3日目に手術を受けました。
手術後は、特に痛みなどはありませんでしたが、予告通り、左目が斜視になってしまいました。しばらくは外歩きも不自由な状態が続き、ようやく斜視が治って職場に復帰できたのは8月です。
手術後、しばらくは慶応大学病院に通って毎月CTスキャン検査を受けました。
そのうちに検査の頻度は三ヶ月に一度、半年に一度、と減り、平成22年の3月には、「もう何も問題が無いので、これからのフォローは赤坂の脳ドックで良いのでは?」と言われました。堀口先生は木曜日の赤坂の脳ドックを担当しておられるので、同じ先生に引き続き診て頂けるのは心強いことです。
平成22年の10月に再度脳ドックを受診しましたが、どこも悪いところはありません、と言って頂けました。本当に安心しました。
現在は、日常生活に何も不自由はありません。
会社では定年をむかえましたが、引き続き嘱託職員として働いてもらえないか、というお話をいただき、現在にいたるまで週3日働いています。
手術は大きな決断でしたが、受けて良かったと思っています。会社でも、後輩達に脳ドックを勧めています。
執刀医 堀口崇先生(慶應義塾大学医学部脳神経外科 講師)の談話
慶応義塾大学病院では、脳ドック等で未破裂脳動脈瘤が見つかった患者様を多数治療しています。脳外科の総手術数は年間450件程で、そのうちの約40件は未破裂脳動脈瘤の予防手術です。
患者様と相談しながら治療方針を決め、様々な機器を用い、安全確実な手術を実施することをモットーとし、大変良い治療成績をあげています。
脳ドックで発見されたA子さんの脳動脈瘤は、直径3.5mmの内頸動脈前脈絡叢動脈分岐部動脈瘤でした。
脳動脈瘤が破裂する可能性は、一般に年間に1%弱程度と言われています。
手術をせずに経過観察をするという選択肢もありましたが、A子さんの場合、動脈瘤の形が良くなかったことと、年齢が50代とまだお若いこと、そして未破裂脳動脈瘤の家族歴があることを鑑み、ご本人と相談の結果、開頭クリッピング手術を選択しました。
動脈瘤が出来ていた動脈前脈絡叢動脈は細い血管で、クリッピング手術の際には詰まるリスクがあります。
手術には、MEP(運動性誘発電位)、内視鏡、ドップラー血流計等のモニター機器を用い、細心の注意をはらって臨みました。所要時間は4~5時間程で、手術は成功しました。
術後に一過性の動眼神経マヒが起こりましたが、これは想定されたことで、三ヶ月程度で完全に治っておられます。
手術後、2年間ほど慶應大学病院の外来でフォローアップしてきましたが、今後は脳ドックで総合的な健康診断も受け、健康管理に努めて頂きたいと思います。